小説 川崎サイト

 

付喪神

川崎ゆきお



 ロボットはいくらなめらかな動きが出来るようになっても、それはプログラミングされた世界だ。ロボットに自分の意志はない。だからロボットなのだ。
 今から百年前、それを見越した学者がいた。しかし、それは常識的に考えて、当然のことで、大発見ではない。
「自分の意志で動くロボットが理想なんだ。決まった動きしかしないのでは面白くない」
「ロボットに要求されているのは、決まった動きじゃないですか。勝手に動きだせば暴走ですよ」
「まあ、そうなんだけどね。決まった言葉しか話さないのじゃ、面白くないんだよ」
「まあ、人工知能は、そこまでですよ」
「巨大なデータベースが必要になる。それでも自分の判断で動くわけじゃない」
「いや、ロボットの意志ですよ」
「判断基準を人間が決めているじゃないか」
「まあ、そうですが」
「そこでだ。村田博士の研究を私は注目している」
「大昔の工学博士ですね」
「百年前だ」
「コンピューターもなかった時代でしょ」
「機械と生命についての研究者だ」
「噂では聞いていますが、それは馬鹿にする時のネタでしょ」
「そろそろ百年だ」
「没後百年ででしたか」
「仕掛けてから百年になる」
「仕掛け?」
「百年経過したのだから、そろそろ出来ているかもしれん」
「そんな実験があったのですか」
 二人のロボット工学者は村田博士宅を訪れた。
 村田博士の子孫はサラリーマンだった。
「あれですか」
「見せてもらえませんか」
「いいですよ。ずっと守ってきましたから」
 それは、江戸時代のカラクリ人形だった。
「これだよ。これがロボットなんだ。しかも自分の意志で動くはずの」
 座敷の真ん中でお茶を運ぶカラクリ人形が座っている。
「動きませんよ」
「話しかけてみろ」
 しかし、人形は動かない。
「百年じゃ無理なんでしょうねえ」
 村田博士の研究は古くなった器物が妖怪になることからヒントを得て、座敷に結界を張り、カラクリ人形を安置し続けたものだ。
「でも、妖怪とロボットとは別でしょ」
「いや、このカラクリ人形は鯨ひげバネ動力の立派なロボットだ」
「でも、知能がないじゃないですか」
「そこを、付喪神化させることにより、補おうとしたんだろうね。博士は」

   了

 


2008年12月4日

小説 川崎サイト