小説 川崎サイト

 

原っぱの家

川崎ゆきお



 住宅地に妙な家がある。
 古い町ではない。分譲住宅で出来たような町だ。
 雑草が茂っている。
 町から消えた原っぱのような感じだ。
 原っぱと言えるほど広い。
 周りに家がある。それらの家の二十軒分ほどの幅が、原っぱにはある。
 区画整理されているため、道路が碁盤の目となっている。その原っぱ内にも道路が走っている。碁盤の目に収まりきらないのだ。
 原っぱの中程の粗末な木造家屋がある。平屋だ。
 巨大な敷地のお屋敷規模なのだが、どういうわけか家が小さい。
 一人暮らしの老人が住んでいる。
 老人の敷地は仕切りがない。道路が仕切りとなっているのだが、門も塀もない。売れ残りの分譲地のようにも見える。
 柵もないため、子供が遊び場にしている。それをとがめるのは親で、老人は無頓着だ。
 道路から建物までは距離がある。どこが家の入り口なのかが分からない。四方から入れるためだ。
 郵便屋は原っぱ内の道なき道を突破して玄関口にある郵便受けまで入り込む。
「表に郵便受けを置いたらどうです」
「取りに行くのが面倒でね」
 道路と原っぱの間に溝がある。下水管があるので、溝はいつも乾燥している。
 郵便屋のたっての頼みで、老人は溝にどぶ板をはめた。これで、郵便バイクが敷地内に入り込めるようになった。
 工務店が何度も駐車場にしましょうと通ったが、老人は頷かない。
 原っぱには樹木はないが、長く伸びた背の高い雑草は大人の背丈を超えている。
 蔓が伸びる雑草が家屋を覆い、遠くから見ると草の塊りだ。
 庭の手入れをしましょうという植木屋がセールスに来たが、老人は頷かない。
 玄関から道路に出る通路が、いつの間にか出来ている。郵便屋がバイクが通れるように、雑草を刈ったのだ。
 電気、水道、ガスのメーターは玄関前にあるため、通路は必要なのだ。
 老人は原っぱの手入れを全くしないわけではない。
 南を向いている縁側の周囲だけは草を抜いている。洗濯物を干すためだ。
 庭の中に庭がある感じだ。
 原っぱの一軒家に住む老人は、決して寂しくはない。
 なぜなら、敷地を多くの家が四方囲んでいるため、覗かれっぱなしなのだ。
 夜になっても家屋からの明かりがない日が続いた。
 心配した近所の人が、様子を見に来た。
 だが、蛍光灯が切れていただけのようだった。

   了


2008年12月11日

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