商店街の怪
川崎ゆきお
宮下は場末に引っ越した友人の住むアパートを訪れた。
「都落ちだね」
「そうでもないさ。こういう下町のほうが落ち着くんだ」
「ところで……」
宮下が妙な目で語りかける。
こういう時は何やら怪しい話になることを吉岡は知っていた。
「あれかな」
吉岡はカマをかけた。
「あれっていうか、まあ、あれかな。ちょいと雰囲気が怪しかったのでね」
「じゃ、あれかい」
「分かる? それだけで」
「商店街を抜けてきただろ」
「ああ」
「君ならきっとそこで、引っかかるはずだと思ったんだ」
「当たってるなあ」
「じゃ、やはりあれだろ」
「洋服屋だ」
「そうか、やはりな」
「宮下君も気付いていたの」
「ああ、何となくね」
その洋服屋は普通の家に戻っていた。しかし店先は昔のままだった。
「改装する金もないんだろうね」
「まだ、あんなのが残っている」
「結構あるんじゃない」
それはマネキンだった。
しかも、女学校の。
「学生服を引き受けていたんだろうね。昔は」
セーラー服を着たマネキンは、表からよく見える。それ以外は片付けられたようだ。
「店内に女学生が立っているんだよ。そりゃびっくりするよ」
「あれだけ、残したんだろうね」
「看板は残ってるよ」
「それで、どうなの?」
「いや、貰い受けたいとかじゃない」
「売らないでしょ、きっと」
「店主は高齢だろうな」
「一度見たことがある。お爺さんだ」
「今は、民家と変わらないんだろ」
「そうだね」
「噂は?」
「ある」
「それそれ、それを聞きたい」
「君も見ただろ。あのマネキン」
「何か感じなかったかい」
「感じたから、こうして話しているんじゃないか」
「そうだね。綺麗だよね。顔かたちじゃなく、よく手入れされている」
「そこそこ」
「あの爺さん、手入れしたいるんだよ」
「だろうね」
「生きてるみたいだったし」
「それは言いすぎでしょ」
「そうだね」
了
2008年12月18日