小説 川崎サイト

 

特徴

川崎ゆきお



「町の特徴ですか?」
「うちの市との違いは何でしょうね?」
 二つの市は隣接している。風景的には全く変わらない。隣の市へ入ったとしても、さしたる変化はない。
「市長や、市会議員が違うことじゃないですか」
「その影響、分かりますか?」
「ないですねえ」
「市役所が便利なところにあるとか、その程度でしょ」
「そうですねえ。地域差なんてないですね。近すぎますから」
「じゃ、二つの市の特徴は何でしょうね」
「うちは、酒造が盛んですよ」
「うちもですよ」
「でもそれも、暮らしには関係ないですね。その蔵元の酒を飲む分けじゃないし。だいたい日本酒は飲まなくなりましたよ。まあ、飲み屋で飲むますがね。郷土の酒を買ってまで飲みませんよ」
「でも、特産品のようなものでしょ。だから、市の特徴ですよ」
 二つの市は、それぞれ複数の村が集まってできていた。
「うちは、村祭りがありますよ」
「それは市の祭りじゃないでしょ。だから、市の特徴じゃない」
「でも、市内の村にある村祭りだから市の特徴ですよ」
「ああ、そうなの」
「県の無形文化財の指定も受けていますよ」
「じゃ、県のものかな」
「いや、村ものですよ。でも、それは村人しか参加できないんですよね。僕らはよそ者だから、村民じゃない」
「鎮守の森があって、氏神様があって、そういう世界ですね」
「そうそう、僕だって、田舎に帰れば、村人ですよ。先祖代々その村の住人ですからね」
「しかし、何ですなあ。特徴を言い出しても、自慢にならないのは、お互いよそ者のためでしょうかね」
「家にも特徴がなくなりましたねえ」
「大きな家がないからでしょうね。有力者がいるようなお屋敷とかね」
「そうですねえ。昔の豪族のようなね。そしてその一族が大勢近くで分家しているとか」
「昔は、そうだったんでしょうねえ。二つの市を束ねていたような一族がいたんでしょうね」
「そうですねえ。そういう封建的な繋がりがないと、特徴もないでしょうねえ。市長は殿様じゃないしね」
「民主主義の世の中だから、特徴がなくってしまったんですよ。みんな平民になってね」
「そこまで展開しますか」
「その時代のほうが奥深かったような気がしましてね」
「奥行きですね」
「そうそう、奥行きがなくなったんですよ。最近の町は」

   了


2008年12月20日

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