小説 川崎サイト

 

不帰の洞窟

川崎ゆきお



 洞窟の前に人が立っている。戦士ではなく民間人のようだ。
 そこへ若き戦士が現れた。
「ここは不帰の洞窟。入った冒険者で帰還者なし」
「またか」
「何? まただと。他にこの種のダンジョンがあるのか」
「ある」
「若いの、そなたは不帰のダンジョンへ入った過去があるのか」
「ああ、入ったことがある」
「すぐに出たのだろ」
「いや、奥まで行き、化け物を退治し、宝箱を持ち帰ったことがある」
「ほう」
 洞窟守は、次の言葉が出てこない。しばらく思案した」
「では、入るぞ」
「いや、待て。ここはそんなダンジョンではない。本当に不帰のダンジョンなのだ。だから、私はそれを忠告するため立ち番しておる。安心安全のためには」
「でも、冒険者が安心安全な場所ばかりうろついていても面白くも何ともない」
「若いの、そこもと、この洞窟の恐ろしさを知らぬから、そんなことが言える。誰一人として入って戻ってこないんだから、成功率ゼロパーセントなんだよ」
「それは歯ごたえがあっていいなあ」
 冒険者は中にさっさと入ってしまった。
 洞窟守は灯明に火をつけ、経を唱えた。
 そして、止めることができなかったことを悔いた。いかに自己責任とはいえ、止めきれなかった自分にも責任があると感じたからだ。
 この洞窟守は一度だけ入ったことがある。だから、一人だけ不帰ではなかった人間なのだ。ただ彼は冒険者ではなく、ただの薬屋だった。洞窟内にいる化け物たちも、それで油断していたのかもしれない。彼は戦闘しないで戻ってきた。逃げ足が速かったのだろう。
 そして、中に入った若き戦士は入り口付近で化け物を簡単に退治した。
 しかし、退治しても退治しても、化け物が出てくる。
 彼はそれほど強いわけではない。ただ、若いだけに怖いもの知らずなのだ。今までどんな化け物が出ても退治してきた。その自信だけが若者にはあった。
 彼は自分のレベルを知っていた。そして、この辺りにいる化け物のレベルも知っていたのだ。勝てない相手ではないことを知っていたのだ。
 しかし、それにしては、あまり強くないことを感じた。歯ごたえがないのだ。
 化け物は次から次に現れた。若き戦士はほぼ一撃でそれらを倒し続けた。
 洞窟守は先ほどの戦士が帰ってくるのを待ち続けた。もう三日になる。
「あの若者もやはり帰らぬのう」
 確かに帰ってこなかった。
 ダンジョンレベルが低すぎ、退屈して途中で投げ出したのだ。

   了

 


2008年12月21日

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