小説 川崎サイト

 

派遣

川崎ゆきお



 師走の繁華街にあるバスターミナルにねずみ色の軍団が現れた。
 派遣切りで職を失った人々だ。
 そこは長距離バスの乗り場だ。まだ年末年始の帰省ラッシュ時ではない。
「何処なんでしょうねえ」
「行き先、聞いてません?」
「聞いていないよ」
 観光バスが次々に入ってくる。行き先はバス会社の名前になっている。回送車のような感じだ。
「私は赤穂浪士を連想しますよ」
「ほう、どんなイメージの?」
「討ち入り後、大名屋敷に預けられるんですよ。まあ、切腹は覚悟でね」
「それは、少し離れてはいませんか」
「何処に連れて行かれるかが、分からないことと、覚悟の上従う行動ではに似てますよ」
 バスは次々にやってきて、労働者を乗せていく。
「本当に仕事、あるんでしょうかね」
「それを考えると暗いですよ。あると思わなければやっていけないですよ」
「でも、何処へ行くかぐらい、言ってくれればいいんですがね」
「担当の人、来てないでしょ」
「そうですね。来たバスに乗れとだけ言われてますから」
「行き先、分かってしまえば、何だと思いますよ」
「何だって?」
「ああ、あそこかってね」
「心当たりあります?」
「ないね。だから乗る気になったんですよ」
「国内でしょうね」
「バスで行ける場所だからね」
「空港かもしれませんよ。バスで行かないと遠いから」
「移民か」
「その可能性ありますよ」
「それはない。パスポートないでしょ」
「なるほど。じゃ、国内だ」
 そこへ年長の男が割って入った。
「古墳ですよ」
「はあ?」
「巨大な古墳を四国の山奥に作るんですよ。その作業員ですよ」
「じゃ、ピラミッドを作ったときと同じやり方かね」
「国はね。私ら食わすだけの金持ってるんですよ。まあ、現金で渡すわけにゃいかないから、特殊公共事業でね」
「誰の古墳なんです?」
「さあ、誰かね」
「それはいいけど、何で古墳なんだい」
「人件費だけですむからさ」
 バスがまた来た。今度は彼らが乗る番だった。
「埋葬者はもしかして……」
「一人とは限らないってことかな」
 長距離バスは静かに発車した。

   了


2008年12月23日

小説 川崎サイト