小説 川崎サイト

 

長老とお庭番

川崎ゆきお



 見回りボランティアが長老宅を訪ねた。宅と言っても広大な屋敷だ。土地の有力者であった時代は去っており、その一族も都心に出てしまい、今は長老一人が住んでいる。その意味で一人暮らしの老人のカテゴリーに入る。
 ボランティアは庭先に通された。
 老人は縁側に座り、ボタンティアを迎えた。
 老人のひなたぼっこ用の中庭のような感じで、植木屋がたまに手入れに入る程度で、草花は育てていない。
「この前の人たちかな」
「お邪魔します。お爺ちゃん」
 ボランティアは立ったままだ。
「まあ、座りなされ」
「失礼します」
 ボランティアの男女は縁側に座ろうとした。
「この前の人たちではないのか?」
「ローテーションで回っているもので」
「じゃ、ここに座ってはいけませんよ」
 二人は座る場所を探した。といっても他に座る場所は縁側しかない。座敷に通されていないからだ。
「えっ」
 一人が、どうすればいいかを聞くように老人を見た。
「何処に座ればいいのでしょうか」
「そこに座ってもかまわんよ」
 その、そこは地べただった。
「あ、はい」
 二人は地べたで中腰になった。
「なんだい、その中途半端な座り方は」
「あ、はい」
 二人は地面に尻を付け、両足を曲げて座った」
「足をこちらに向けるやつがあるか」
 二人は膝を少し曲げ、足の裏は地面を向いているが、足そのものを老人に向けていることは確かだ。
 男はあぐらをかいた
 女は正座してしまった。
「話を聞こう。電話で何か訳の分からんことを言っておったな」
「町のお年寄りを見回るボランティアです」
「ああ、そうだったか」
「お変わりありませんか」
「別にないが」
「では、これで失礼します」
 正座がきついのか、女が先にいとまを願う。
「何だ、あんたたちは」
「また、来週担当が来ますので、よろしく」
「見ぬ顔だが、何処の在じゃ」
「住所ですか」
「ああ」
「隣町と合同のボランティアです」
「隣町とは何処だ」
「西上町です」
「西上のものが、この東村へ来ておるのか」
「はい」
「時代じゃのう」
「一人暮らしのお年寄りが増えたので、何とかしようと隣接する地域を一括して……」
「わしも一人暮らしじゃ。で、何をしてくれるっていうのかな」
「無事にお暮らしかどうかをたまに見回ってます」
「あんたたちは無事暮らしておるか」
「はい」
「それは何より」
 二人のボランティアは砂を払いながら立ち去った。
「次吉」
「はっ」
 庭石の後ろに隠れていた忍者が駆けつけた。
「用心が悪い。二度と入り込ませぬよう」
「ぎょい」

   了


2009年1月8日

小説 川崎サイト