小説 川崎サイト

 

山田ダンジョン

川崎ゆきお



「押し入れにダンジョンがあるらしいです」
「山田さんの家にですか」
「らしいです。マイダンジョンだと言ってます」
「あなたはどう思います」
「そんなところに地下迷宮があるとは思えません。ああ、それは言うまでもないことで、答えは最初から決まっています」
「山田さんの家は一戸建てですね」
「はい」
「押し入れの下は地面でしょ」
「そうです」
「地下室を作ることもできますね。これがマンションの何階かに住んでいる人なら妄想ですが。物理的に不可能でしょ」
「先生は肯定するのですか。山田ダンジョンを」
「では、聞きますが、今まで、ダンジョンに入った人の話を聞きますか?」
「聞いたことないですよ」
「だったら、肯定するようなことじゃない」
「そうでしょ。だったら先生も否定でしょ。あり得ないですからね」
「押し入れの地下ではなく、山田さんの頭の中の地下のことでしょうね」
「いいですねえ。その表現。つまり、妄想だと」
「きっと山田さんは子供の頃押し入れに入るのが好きだったのかもしれません。そこで、いろいろなことを空想するのが好きだったとか、です」
「じゃ、山田さんがダンジョンに降りていくのは、空想を楽しむためですか」
「押し入れの暗闇の中で、空想世界を彷徨っているのでしょうねえ」
「連れてきましょう。やはり病気でしょ」
「空想するのは病気じゃないですよ」
「でも、大きなバッテリーを買ってますよ」
「洞窟探検には必要なアイテムでしょうね。それを手にして押し入れでじっとしているのでしょう」
「その状態、病気でしょ」
「連れてこなくてもいいですよ。それだけなら」
「先生」
「何ですか」
「うらやましいです。山田が」
「あっ、そう」

   了


2009年1月20日

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