小説 川崎サイト

 

成功失敗

川崎ゆきお



「失敗談を聞いていると安心するなあ」
「そうそう、成功談を聞いていると不安になるし、どんどん元気がなくなるね」
「失敗談にはほっとさせるものが含まれてるからだよ」
「たとえば?」
「含まれているというか、最終的には失敗なのだから、安心して聞いてられる」
「そうそう、成功するとまずいねえ。それはラッキーでしょ」
「ほとんどが運だね」
「運と努力でしょ」
「うん」
「努力しないで成功した話はあまりないね。きっと黙っているんだね」
「ただ、運がよかったじゃ、話にならないでしょ。宝くじ、当たったのと変わらないんだから」
「ああ、そうだね。宝くじ当たった人、人に言わないねえ」
「聞きたくもないよ。他人のラッキーは」
「でも、君も成功したいんでしょ」
「だから、成功って、どういうことなんだろう」
「人より秀でた何かだろ。人より給料がいいとか、地位が高いとか」
「それ、成功かな?」
「ああ、普通だね」
「だから、成功じゃなく、大成功じゃないとインパクトないんだよ」
「大成功? 実験が大成功するとか、大発明とか」
「そうそう、社員じゃなく、成功して会社を興したとか」
「なるほど、それぐらいの差がないと成功者と言えないんだ」
「成功者の末路も聞きたいねえ」
「大変だよ。一度成功し、高い地位に就いたりすると、落下がね」
「それそれ、だから、成功談が疲れるのは、そのあと維持できるかどうか考えるからだ」
「それって、失敗者の妬みなんでしょうねえ」
「そうだね」

   了
   


2009年1月21日

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