小説 川崎サイト

 

非現実な

川崎ゆきお



「現実と非現実の狭間って何でしょう」
「ええっ?」
「現実と非現実の間を行き来しているようだとか、一瞬非現実な世界に入ったとか……」
「ああ、言いますねえ」
「では、現実ではない世界があるんでしょうね」
「現実じゃない、実際にはない世界はあるだろうねえ。現実にはあり得ない事柄でしょうね」
「あり得ない世界には入れないと思うのですが。ないのですから、入れないでしょ。もし入ったとしても、それはまだ現実の内ですよ」
「それらは、つまり、君は何を訴えようとしているの? 何が言いたいのかね」
「ある儀式に参加しましてね、そのときの感想で、他の人が非現実な世界に入ったと言うのですよ」
「薬物でも使ったの」
「いいえ」
「もし、薬物を使ったとしても、それはまだ現実の内だと思うのですよ」
「頭が現実を逸脱した境地にいるんでしょ」
「肉体は現実の中です。だからワープしていない」
「ワープ?」
「薬物ですからトリップですか」
「陶酔状態も現実の内でしょうね」
「そうでしょ。だから、ワープするように、別世界、異世界、異境へ入ったわけじゃない」
「はいはい」
「老人のボケもそうですよね。あれも非現実な世界へは行っていない」
「そうだね、その人の範囲内の世界だよね」
「だから、現実と非現実の間を行き来していあないのですよ」
「では、どんな感じが非現実なのかね」
「この現実と、まったっくかけ離れた、そして、その体験者とは関わりのない世界です」
「どうして、そういうことにこだわるのですかな」
「あたかも非現実な世界に行ってきたような言い方をするからですよ」
「その儀式で、ですか」
「はい、それはどこまでも現実の内なんですよ。それをどうして非現実だと言ってしまうんでしょう」
「それは、言葉の綾です」
「言い過ぎなんですか?」
「そうそう、まるで、非現実な世界に入ったような気持ちだっと言うことを省略して言ってるのでしょう」
「ただの言葉の使い方なんですか」
「そうです」

   了


2009年1月31日

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