小説 川崎サイト

 

一角獣

川崎ゆきお



 長い夜が続いている。
 長田は今日も起きている。
 最近続けて化け物が出る。部屋の中にだ。
 何かの錯覚ではないかとは思わない。
 それだけ明快な化け物なのだ。
 何かと見違えるようなものではない。
「一角獣」
 長田の第一印象だ。
 一角獣は頭の天辺に角が一本だけ突き出ていた。鹿に似ている。
「鹿が部屋の中にいるわけがない」
 当然の話だ。
 鹿がいるだけでもおかしいのに、鹿ほどの大きさの馬の形をした胴体をしている。
 鹿だけでも大変な話だ。
 鹿が出没しそうな場所に住んでいるのなら、謎の解明は難しくない。どこから入り込んだのかを考えればよい。
 しかし、都心部のマンションに鹿は入り込まない。これだけでも大珍事だ。
 同じマンションに、鹿を飼っている人がいるかもしれない。また、何かの都合で、一時預かっているとかだ。
 だから、鹿が部屋の中にいるのは、何とかなる話だ。
 これが一角獣になると、話は全く違う。非常に細い世界なのだ。
 ただ、それを目撃したのは、長田だけなのが幸いだ。
 長田もそれを考え、これを錯覚方面へ持ち込もうとした。
 一角獣はリビングの端でじっとしている。テレビや本棚のある壁際だ。
 そこで、行儀よく座って長田を見ているのだ。
 長田は隣室の和室の万年床から、一角獣を見ている。
 布団の中からでもテレビが観られるような配置にしている。
 一角獣はテレビがついているときは現れない。長田が寝付いたときだ。
 最初に発見したのは、トイレに立ったときだ。寝ぼけているのかと思った。
 トイレから戻ってくるとき、もう一度見ると、やはりいた。
 長田は電気をつけた。
 どう見ても一角獣だった。
 襲ってくる気配はない。おとなしい化け物なのだ。
 長田は一角獣を捕獲しようと、押入から捕獲用に使えそうなものを探したが見つからない。
 シーツがロープ代わりになると思い、束ねて三本作ったのだが、その間に一角獣の姿は消えていた。
 捕獲されることを感知したのだろうか。
 しかし、そういうことではなく、突然消えていることが大事なのだ。
 別に大事なものではないが、今までいたものが突然消えていることが重要なのだ。
 だから、この一角獣は動物の一種ではなく、化け物なのだ。
 動物なら、場所移動はするが、消えることはない。
 その後、一角獣は時々現れては、さっと消えてしまうパターンを繰り返した。
 長田は、それだけのことなら、実害はないと思い、今は放置状態だ。

   了



2009年2月3日

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