小説 川崎サイト

 

鳥とドジョウ

川崎ゆきお



 村の畦に鳥がいる。
 弱っているようだ。
 野良に出た村人がそれを発見する。
「何処から飛んできたのか、かわいそうに。しかし、見かけん鳥だなあ」
「どうした」
「鳥だ」
「この寒さでは食べるものがないんだろ。それで弱ってるんだ」
 村人はトウモロコシを砕いて餌にした。
 しかし食べない。
「食べる体力がないのかのう」
 そこへ物知りの村人が現れた。
「小魚がいい」
「そんなのいないよ」
「ちりめんじゃこがあったぞ。メザシも」
「生でないと駄目だよ」
 物知り村人はドジョウを持ってきた。
「この季節にドジョウがあるのか」
「柳川鍋用の養殖ドジョウだよ。街で売ってるんだ。業務用だけどね、ペットショップにも流しているんだ。そこで買ってきた」
 さすがに物知りだ。
 そこへ、村役人が現れた。
「その鳥に餌をやってはならん。そういう御触れだ。この鳥は自然に戻した鳥でな。人が手を貸しては駄目みたいなんだ」
「それで、この辺じゃ見かけない鳥だったんだ」
 村人は物知りが持ってきたドジョウを鳥に与えようとした。
「それが駄目だと言ってるんだ」
「死んでしまうぞ」
 鳥はドジョウに反応している。
「今、これをやれば、死なないですむじゃないか」
「しかしなあ。お上からのお達しなんだ。御法度破りは村の責任になる」
「罰せられるのか」
「そこまで、きつうないが」
「じゃ、いいじゃないか」
 村人はドジョウを与えた。
 鳥は一気に飲み込んだ。
 村役人は見なかったことにした」
 どこで、漏れたのか、鳥を助けた噂が流れた。
 お上の鳥目付が村に来た。
 鳥はすっかり元気になった。ドジョウが効いたのだろう。
「その鳥は自然に戻したもの。人が世話してはならぬ。自然の中で生きていくことが大事なのだ。そうすれば自ずと数が増える。その鳥は貴重な鳥ゆえ、種を絶やしてはならぬ。そちらは手を貸した。お上の御触れをなんと心得る」
 注意を与えただけで、鳥目付は立ち去った。
 残っていた鳥も、この村に集まってきた。
 物知りは、ドジョウの買い出しで忙しい。

   了


2009年2月17日

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