小説 川崎サイト

 

パニック症候群

川崎ゆきお



 精神的におかしくなった山田という友達について、共通の友達二人が話している。
「パニック症候群だってさ」
「そりゃ大変だ」
「会社、休んでるらしい」
「そんなに悪いのか」
「電話してきたよ。君とこ、来なかった」
「いや、連絡はない」
「俺のほうが話しやすかったからかな」
「そういう話、得意に話していたから」
「ああ、俺ね。昔ね。そうだね」
「で、どんな感じ」
「ぐだぐだ言ってた」
「優しいねえ。聞いてあげてたんだ」
「半分、好奇心だよ。あいつ、昔から神経質なところあったから、やばいなあって、思ってたんだ。すると、やはりだ」
「山田は、細かい気配りができていたからなあ」
「よけいなこと、考え過ぎなんだよ」
「でも、いい会社、就職してたじゃないか」
「いい奴だからな」
「それで、何、話してたの?」
「愚痴なんだけどね」
「会社の?」
「人生のさ。それと自分の生き方についてとか」
「グチってるだけなら、正常じゃないの」
「十年は会ってないし、連絡もなかった相手に、グチるかね」
「ちょっと離れた相手のほうが話しやすかったんじゃない」
「SOS信号風に話してた。このままじゃ危ないって」
「それは心配だな」
「心配してる? 山田のこと」
「少しは」
「本当?」
「まあ、どうでもいいけどね」
「そうだろ。だから、迷惑だよ」
「でも、頼られたら、何とかしてあげたいと思うよね」
「その手には乗らない」
「それも、そうだけど」
「じゃ、君が乗ってあげるかい」
「それは、やめとく」
「だろ」
「最近多いよ。壊れていく奴」
「うちの会社にもいたなあ」
「壊れた人って、昔は何かが憑いたと言わなかった」
「妖怪かい」
「半妖怪さ」
「イヤだよ。俺も、化け物とつきあうの」
「化け物は言い過ぎだよ」
「こっちまで、おかしくなるからな」
「で、どうするの」
「俺は、いい人にはならない」
「ああ、なるほど」
「僕が、山田のように壊れたら、君はどうする」
「逃げるよ」
「うん、妖怪にはなりたくないなあ」
「お互いにな」

   了


2009年2月20日

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