小説 川崎サイト

 

戦国武将

川崎ゆきお



「で、この戦国武将は何をやったのですか」
「何って、言いますと」
「天下に何か影響を」
「ああ、歴史を動かした、とかですね。それはないと思いますよ」
「じゃ、魅力は?」
「マイホームなんでしょうね」
「戦国時代でしょ。マイホーム主義とは逆の時代ではないのですか」
「いえいえ、家が第一の時代ですからね。この時代こそ我が家第一の時代ですよ」
「おお、そうなんだ。でも、天下を取るとか、野望を抱いてとか」
「いずれも、我が家の繁栄でしょう」
「しかし、何か理想がありゃしませんか」
「ありゃしませんよ」
「動乱を鎮め、天下に平和を与えるための戦いとか」
「それは、後付けでしょうね」
「で、その戦国武将は、我が家第一に成功したのですか」
「尾張の豪族から大大名になりましたよ」
「でも、人気ないですねえ」
「時の権力者三人にわたって、うまくベンチャラしましたからね。それで天下を取れば、英雄談のエピソードなんでしょうが、その武将の場合、我が家を守っただけなので、今一つ魅力がないのですよ」
「じゃ、平々凡々な人間でも、大出世したという話で、満足しましょうか」
「そういう人、他にもいますからね。自分の殿様が出世して、その勢いで」
「じゃ、魅力ある戦国武将って、どんな感じになるのかね」
「半ばで、倒れた武将でしょ」
「ほう」
「それこそ、マイホーム主義とは逆です。我が家大事なら、もっとうまく立ち回れたはずです」
「それ、現代に応用できるかね」
「魅力は鑑賞用で、実用じゃないですから、参考にはならないかも」
「我が家第一では、歴史から学ぶ必要はなさそうだね」
「そうです。流れに逆らわないで、生きていくでは、面白味がありませんしね」
「で、その戦国武将の子孫は?」
「まだ、生きていますよ。だから、悪口、言えないわけです」
「言ってるくせに」
「表だってはね」

   了


2009年2月22日

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