小説 川崎サイト

 

青春の遺産

川崎ゆきお



 坂田が入ってきたので、吉村はテレビを消した。
「何か見ていた?」
「録画だから、いつでも見られるよ」
「邪魔だったかなあ」
「邪魔だと思うなら、いきなり入ってこないだろ」
「あ、そうか」
 坂畑は悪いと思ったのか、話のネタを吉村に合わせようとした。
「どんな番組だい」
「世界遺産」
「昔の」
「番組は新しいけど、世界遺産は大昔だな。特に古代の遺跡とかは」
 吉村がのってきた。
「これを見ているとむなしく思うなあ」
「どんな風に」
 吉村は急には答えられないようだ。
「あまり古いと、懐かしさもないだろ」
「それなんだ。それ」
「え、どれ?」
「こういうの残しても、何も伝わっていないんだろうなあって。そこで切れてる」
「でも、日本なら、繋がっているんじゃない」
「そうだけど、文明が途切れた遺産は悲しい」
「それ、何と絡めて話してるの?」
 吉村が感傷的になっているとき、決まって目先の何かと関係していることが多いことを坂田は知っていた。
「伝承は途切れるってことさ。そして、途切れても、別に何とも思わない」
「伝承かい」
「伝統でもいいし、大切な精神でもいい」
 坂田は、吉村が何を間接的に言いたいのかを考えたが、思いつかない。
「大したことじゃないよ。むなしいなあって思うだけのことだよ」
「何か今、むなしいことでもあるの」
 坂田は直球で訊ねる。
「僕らのこういう下宿生活も、何十年もすれば、忘れられるんだなあってね」
「卒業しても、ずっと友達だよ」
「それで結論を出した」
「どんな」
「今のことに集中する」
「過去や未来ではなく、今に生きるってことだな」
 坂田は話を合わせた。
「そうだ」
 坂田の意見は別にあったが、勝手に上がり込んだため、話を合わせてしまったようだ。

   了


2009年3月8日

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