小説 川崎サイト

 

地下飲食街の怪談

川崎ゆきお



 誰が言い出したのか、飲食街に何かが出る噂がある。
 何かとは、この世のものではないような生き物だろう。幽霊か妖怪変化かは分からない。ただの噂で、確かめた人はいない。
 場所は、駅前開発でできた駅ビル地下飲食街だ。
 駅前にあった飲食店が、そのままテナントとして入っている。追い出されたような感じなので、優先的テナントを与えられた。
 ただ、開発で立ち退きの時、立ち退き代をもらっており、希望者だけがテナントに入った。他で店を開くだけの余力がなかったためだ。
 地元の人は、地下埋葬地と呼び、この地下飲食街へは行かない。忌み嫌う場所のように感じているためだ。
 その感じは、駅ビルオープンの時、はっきりした。
 地下飲食街は、安置所のような感じに見えたのだ。
「ここも出ますか」
 祈祷師が訪れ、地下飲食店組合員と話す。
「出ませんよ。出ませんがね。噂が出るんですよ。だから、祈祷お願いしたいんです」
 これでは、何かが出ることを認めているようなものだ。
「多いですなあ。最近。この形式のステーションビルはほとんど出ますよ」
 祈祷師はよくあることだと言いたいのだろう。普通の需要で、ここだけが特別なものではないと。
「三ヶ月で、シャッター通りですよ」
 組合員は地元の商店ではなく、外から来た寿司屋だ。
「で、どこに出るんですか」
「この通路全体ですよ」
 地下通路の左右にテナントが並んでいる。
「出るという限りは、恨みを呑んでなくなられたとかが多いのですがね」
「恨みは呑むものですか」
「ぐっと、恨みを胸か腹に呑んで、そのまま果てた場合、恨みのエネルギーが漂い、それが何かになるのですよ」
「地縛霊とかも」
「それもありますなあ」
 しかし、地元の商売人には、それなりの立ち退き料が支払われたと聞いていますよ。それに、ここへは優先的に入れるようになってるはずです。恨まれるような場所じゃない。そうでしょ」
「でも、立ち退きをいやがった人もいるでしょ」
「放火したわけじゃないですよ」
 祈祷師は仕事なので、適当にお祓いをした。
 内密にしていたのだが、いつの間にか知られてしまい、やはり出るのだと噂に真実味を与える結果になった。
 最後まで頑張った寿司屋も、退散した。
 今は、完全にシャッター通りになった。
 地下へ降りる階段もシャッターを閉め、封鎖した。
 地元の人々は封印したのだと噂した。
 もう、そこへは一般客は入れなくなったが、地下にそういう空間があることが、逆に不気味で、悪いもののたまり場になっているのではないかと冗談を言い合った。
 今では地下墓地と呼んでいる。

   了


2009年3月17日

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