小説 川崎サイト

 

魔獣の出る路地

川崎ゆきお



 いつも車でいっぱいの駐車場も、その時間になると間の抜けた広場のように見える。
 コンビニ内にも人影はない。店員も奥で居眠っているようだ。
 その横の自転車置き場に、ある集団がいる。まだ、年齢はよくわからないが、中高生も混ざっているようだ。
 自転車置き場はレジの後ろ側にある。その窓明かりに、彼らは蛾のようにたかっているのだ。
 よく心得ているのか、大声では話さない。内緒話を数人でやっているのだ。それは、決して内緒の話ではない。声が小さいだけのことだ。
 以前は大きな声で笑ったり、感情を抑えきれず、バカ声を発したものだが、今は静かだ。
 彼らは集まるのが目的で、ここがフィニッシュなのだ。
 そこへ、一人の年輩の男が現れた。
 来たな、と彼らは感じ、身構えた。すぐに解散できる用意をした。
「よかった」
 男の第一声だ。
 意外な言葉に、彼らは不審がった。
 年輩の男は話を続ける。
「魔獣が最近よく出よる」
 自分たちことを言っているのだと、聡い少年なら思うだろう。
「この先の路地の奥に出る。誰も何とかしようとせん。この時間になると出よる」
 彼らのことではないようだ。
「どうだ、兵となり、戦ってくれんか」
「兵」
「そうか、引き受けてくれるか」
 少年は聞き返したのだが、男は「へい」を返事と勘違いした。
「屈強な若者が町内にはおらん。消防団は何十年も前に解散した。年寄りばかりの町内だ。若い兵隊がいるんだ」
「魔獣って?」
「そう、魔獣じゃ」
「本当にいるの」
 彼らは、魔獣の意味を探った。まさか、野犬狩りでも手伝えと言うわけではないだろうが、何かの隠語ではないかと思ったのだ。
「警備だけでよい。戦えとは言わぬ。こちらにも戦士がいることを知らしめればいいのじゃから。金は払う」
「傭兵だね」
 少年の一人が高い声を出す。
「この先だ、来てくれるな。今すぐ」
「準備しないと」
「そうか」
「おじさん」
 年かさの少年が男の前に立つ。
「ん?」
「大丈夫ですか?」
「何が?」
「あ、なんでもないです」
「じゃ、ついてきなさい」
 男は先に歩きだした。
「おかしいオジンだ」
 彼らは、その夜は解散し、次の夜は、別のコンビニ前を集会場所にした。
 そして、おかしな人は、きっとあのコンビニオーナーではないかと、噂した。

   了

 


2009年4月3日

小説 川崎サイト