小説 川崎サイト

 

校内禁煙

川崎ゆきお



 柴田は校門前で煙草を吸っている。そこへ一台の外車が入ってきた。
 この小学校卒業の実業家の車だ。
 昼から体育館で講演がある。柴田はそれを思いだした。
 噂では体育器具の寄付があることも。
 校長室の隣に応接室がある。滅多に使われていない。父兄が出入りするのは第二応接室で、そこは職員室と同じ設計だ。
 実業家は運転手と一緒に、応接室に通された。
 迎えるのは教頭と年輩の女性事務員だ。
 壁には歴代の校長の写真が並んで飾ってある。
「私の時の校長は、この人だった」
 教頭も事務員も知らないようだ。
 ソファーに座り、煙草を取り出した。
「灰皿」
 運転手が教頭に言う。
「校内禁煙です」
 事務員がきっぱり言う。
「あ、そう」
 教頭は、しまったというような顔になる。もう少し、言い様があるものだと。
 実業家は立ち上がる。
「どちらへ?」
「吸ってくる」
 実業家が応接室を出ると、全員あとを追う。
 そこを柴田が通りかかった。
「柴田君、喫煙場所へご案内を」
「そんな場所ありませんよ」
「いつも君、吸ってるじゃないか」
「もういいから」
 実業家は帰ろうとしている。
「柴田君、あるだろ。校内に」
 職員便所、体育館と塀の間。屋上の給水タンクの裏。どれも、案内できない。
「校門の前でいいのなら」
「それじゃ、学校から出てしまうじゃないか」
「校内全面禁煙ですからね。出ないと」
 実業家は駐車場へ向かう。
 そのころ、校長は昼寝を終え、約束の時間になったので、実業家を迎えるため応接室のドアを開けた。
 手に大きな灰皿を持って。

   了

 


2009年4月16日

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