小説 川崎サイト

 

お守り袋

川崎ゆきお



 吉岡は自分は何かおかしいのではないかと、いつも感じている。それは悪いことではなく、いいことでだ。
 大きな契約を成立させた夜、一人繁華街を歩いていた。おかしな雰囲気がそうさせたのかもしれない。
 仕事は順調で、さらなる出世が待っている。しかし、もうそれに対して興奮しなくなっていた。
 引き寄せられるというのはあるのだろう。街頭占い師と目が合った。
 最初から、それが目的で占い師がいそうな繁華街を歩いていたといえる。
「すごいですねえ」
 占い師はすぐに声をかけた。かけずにはいられない何かを感じたからだ。
 占い師は霊能者ではない。彼は細い竹をいじらなければ、何もできない占い師だ。
 しかし、多少は霊感があるのだろう。すぐに吉岡の何かを見抜いた。
 それは吉岡自身ではない。
「お守り袋とか、持ってませんか?」
 吉岡は内ポケットから古くさいお守り袋を取り出す。
「中、見たことありますよね」
「はい。お札が入ってます」
 吉岡は袋の紐を伸ばそうとする。
「あ、出さなくてもいいです。それが影響しています」
 そのお守りは、生まれたときから持っているもので、生まれ故郷の氏神様のものだった。
「いますね」
「やはり」
「いい人生でしょ。特に仕事面は」
「はい」
「お引き留めして、すみません。ちょっと気になったものですから」
 吉岡は、ずっと気にしていたおかしな感じの正体が、わかった。
 そして、繁華街のどぶ川に、それを投げ込んだ。
 すると、違和感が消え、すっきりしたような気がした。今まで、もやのように覆っていた何かが消えていた。
 その後、吉岡の営業成績はぐっと落ちた。それでも、決して悪いものではなかった。
「今までラッキーだったんですよ」
 上司にそういって笑った。
 それはよいものだったのだが、まるで悪いものが落ちたように、吉岡には感じられた。

   了

 


2009年4月17日

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