小説 川崎サイト

 

怪人の影

川崎ゆきお



 パトロール中と書かれたプレートを付けた自転車がパンクしていた。
 一台ではない。何台もだ。従って偶然のパンクではないようだ。
 また、町内パトロールの緑のジャンパーに赤い染みが付いていた。何かの塗料のようだ。これも一人ではない。何人もだ。
 パンクした自転車が再びパンクし、新しいジャンパーにまた赤い染みがつくと、さすがに問題になった。
 町内パトロールだけが狙われているのだ。
 そのため、町内パトロールを守るためのパトロールを出す必要が生じるが、さすがにそれは面倒だ。
 そこで、町内に住む老探偵に相談を持ちかけた。
 その老探偵も、この町内に引っ越してから今日まで不審者扱いだった。本人は探偵と名乗っているのだから、不審者ではない。しかし、不審がらせる存在ではある。探偵など、不審な存在なのだ。
「それはねえ」
 老探偵はもう犯人が分かったようだ。
「不審者のシワザですか?」
「ただの不審者じゃない」
 老探偵の目は笑っているが、悪相なので、怒っているようにも見える。どう見ても、時代劇によく出てくる悪親分の顔なのだ。
「並の不審者じゃない。こんなことをやるのはね。ある意志が見える」
「意志とは?」
「それは、ちょいと言えないねえ」
 老探偵には犯人の思いがはっきりわかる。それを説明すると、まずいので、言わないようだ。
「上位の不審者とでも言うべきかね」
「被害届けを出した方がいいでしょうか」
「それはまずい」
 隊員の一人が言う。
「彼らしい狙いじゃ」
 老探偵は、その彼を知っている。こんなことをやるのは、その彼らしいと狙いだと。
「心当たりがあるのですか。犯人に」
「不審者の上位の存在、それは怪人だよ」
「怪人」
「面倒な奴に狙われたものですなあ。あなたがたは」
「異常性格者でしょ」
「何が?」
「だから、その怪人がです」
「異常と正常、それはお互い様じゃないかな」
 老探偵はポロリと言ってしまった。
「怪人は、去りますよ」
「捕まえて警察へ」
「雉も鳴かずば撃たれまい」
「私たちは雉ですか」
「あ、これは失礼」
 その後、パトロール隊には被害はない。
 怪人は去ったようだ。

   了

 


2009年4月19日

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