小説 川崎サイト

 

心霊探偵

川崎ゆきお



 年五十過ぎのベテランだった。
 心霊探偵増田は最近仕事がない。
 ライバルが多いためだと自覚している。
「今晩は」
 現れたのは心霊マネージャーの吉岡だ。
「久しぶりだな」
「ああ、そうですねえ」
「久しぶりに仕事かね」
「そうです」
「どういう風の吹き回しなんだ」
「回り風ですよ」
「ほう」
「増田さんしか、今空いていないようなので」
「誰かのピンチヒッターかい」
「今売り出し中の大学生です。清原さんというのですがね。人気があります」
「霊感が強いのかね」
「あまり関係ないと思います」
「じゃ、依頼のほとんどは、その清原君が持っていってるんだね」
「警察では解決しないいつもの依頼です。容疑者に霊がとりついてましてね。それと交渉する仕事ですよ。ああ、説明するまでもないですが」
「それはすごいねえ。私は霊が見えるだけで、いわば鑑識までの仕事だ。霊とは交信できないよ」
「清原君は、男前ですしね」
「あ、そう」
「一般の依頼も多いのですよ。犯罪とは関係なく、とりついている悪霊に去ってもらうとかね」
「私は、霊ではなく、貧乏神との交渉ならできるんだがね。まあ、そのせいで貧乏になった人は、さすがに、金を出してまで、依頼してこないでしょう」
 マネージャーの吉岡は、こういった霊感者を紹介し、生計を立てていた。
「ところが、大学生の清原君も、実は、仕事が減っているのですよ」
「ほう。私ほどではないだろ」
「まあ、そうですが」
「理由は?」
「高校生の心霊探偵が登場したのですよ。こちらはアイドル系の女の子です」
「大学の兄ちゃんは負けるか」
「犯罪の絡んで心霊探偵の依頼者は刑事さんたちですからね。やはり、そっちへ殺到するようです」
「ますます。五十過ぎのおじさんはお呼びじゃないか」
「心霊探偵ではなく、心霊ハンターはどうですか。こちらの人気は下火で、今なら、それなりに紹介できますよ」
「そうだね。考えておく」
 その年、心霊探偵の数は千を越えた。増田はジャンル替えないと、いけないと感じた。

   了


2009年4月21日

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