小説 川崎サイト

 

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川崎ゆきお



 急速な技術の進歩に人間が追いつかないことがある。
 それは、人間を楽にする技術だが、楽になった分、別の用事が加わるため、結果的には用事が増え、忙しくなる。これはよくある話で、今更言うほどのことではない。
 それとは直接関係はないが、少しだけ似ている牧田の話がある。
 牧田は駅前がどうなっているのかを知るつもりはない。駅前が気になっていないのだ。
 駅前に対して、それほど興味はない。だから、気にもならない。
「ネットで駅前の情報が見られますよ。いつも君が行ってるコンビニの周辺とかもね」
「あ、そう」
 ネット上にその情報を上げている当事者からの電話だ。牧田の友人の坂上だ。
 駅前商店街の依頼で、坂上が作ったらしい。
「アクセスしてよ」
 坂上は商店街の名前を電話で伝えた。検索すれば出てくるので、すぐに行けるようだ。
 電話はそれだけで切れた。
 牧田は検索語を忘れてしまった。カタナカだったように思う。駅前が商店街になっていることを知らなかった。
「何という名前だっけ」
 駅の名前は知っている。そこの地名だ。しかし、その名ではない。聞いたことのない名前だ。だから、忘れたのだ。
 今度電話がかかってきたとき「見たよ」と、言わないといけない。
 牧田は毎日駅前に出ている。日用品などを買うためだ。
 検索語がわからないと、探しようがない。
 牧田は、駅名で検索する。すると、地図が出てきた。しかし、友人の言う商店街の名前はない。駅前周辺の商店街組合の名前のためだろう。
 ネットで調べれば、何でもわかるわけではないようだ。手がかりになる検索語というキーワードが必要なのだ。
 牧田は自転車で駅前に出た。
 夕方なので、改札から出てくる人が多い。 商店街らしいアーケードは以前からない。商店街らしい通りもない。商店は点在しており、銀行や民家も混ざっている。雑居ビルにはよく見るファーストフードのチェーン店や洋服屋がある。
 友人が言っている商店街とは、個人の店が集まっている一角だろうか。
 牧田が探しているのは、商店街ではなく、商店街の名前なのだ。カタカナの、妙な名前だったが、牧田の記憶の中にあるどの言葉とも繋がりのない、ただの音だった。
 ポケットから音がした。坂上からだ。
「見てくれた。僕の仕事」
「そんな商店街ないよ」
「検索かけたら、トップにでるよ。ちゃんとホームページあるから」
「名前、間違ったかもしれないから、もう一度言ってくれ」
 友人はカタカナの商店街名を言った。
「でも、商店街に、そんな名前出てないぜ」
「ネーミング決めたけど、まだ看板出してないんだ」
「そうなの」
 よけいなものを作るな、と牧田は思わず言ってしまいそうになったが、そこは押さえた。

   了

 


2009年4月25日

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