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マニュアル書

川崎ゆきお



 マニュアル書が売られていた。三万円もする。書店では売っていない。出版社名も聞いたことがない。
 浦田は買ってみようかと考えた。そんな高い書籍を今まで買ったことはないが、何が書かれているのかを知りたかった。
 そのマニュアル書はネット上で大儲けするための書らしい。ネット商法なので、マニュアル書も電子書籍で配布するようだ。
 読書として読む本なら三万円も出せないが、実用書で、しかも大儲けの方法が書かれているのだから、三万円の出費は惜しくない。
 浦田は衣料品を当分買わないと決め、三万円を振り込んだ。
 ダウンロードサイトのアドレスとパスワードがすぐにメールで届いた。
 電子書籍を開き、目次を見ると、すべてが広告だった。
 健康食品の販売サイトを開くための一式料金が数十万。ホームページやショッピングカートに、お試し商品まで入っている。
 三万円で得た情報を生かすには、そのセットを買うしかない。
 絶対に売れるネット販売セットを専門コンサルタントが厳選し、すべてを用意しているので、あなたはこの特権を生かし、高収入への道を歩みましょう……と、なっている。
 これはマニュアル書ではなく、広告ではないか。
 広告はさらに続いており、あなたの成功談を出版しましょう、とネットショップとは違うことが書かれていた。
 浦田はマニュアル書サイトへアクセスすると、おびただしい数のマニュアル書が並んでいた。その中に浦田が買ったマニュアル書のタイトルもあった。
 成功の法則を知るためのマニュアルが数万円。テニス上達のマニュアル、元ボクサーが明かすダイエット方法……いずれも数万円のマニュアル書だ。
 浦田は頭がくらくらしてきた。
 マニュアル書販売に参加したい人は、マニュアル書販売マニュアルを買えばよいことが分かった。
 浦田はそれを買うと、マニュアル書サイト一覧が記されたマニュアルが送られてきた。
 作り方を知るには、またマニュアルを買わないといけない。その中に、マニュアル書選びのマニュアルもあった。
 浦田は今まで買ったマニュアル書を見ながらマニュアル書を書き始めた。
 
   了
 

 

 

          2006年05月2日
 

 

 

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