小説 川崎サイト

 

土俗の集い

川崎ゆきお



 夜中奇声が聞こえる。動物の鳴き声ではない。人間の声だ。
 その声を聞いた特定の住人は引き寄せられる。吉田もその一人だ。
 奇声は山の方から聞こえてくる。
 山間の新興住宅地で高層マンション群が山より高く聳え建っている。
 トンネルができたため、市街地と近くなった。だからできた住宅地で、ニュータウンだ。
 奇声は山間の奥側の山から聞こえてくる。さすがのその先の山間は道を通すのが難しく、トンネルを掘って抜けたとしても、このニュータウンほどの平地がない。
 吉田は毎週のように奇声や妙な音を聞いている。今夜こそ見に行こうと思い立った。
 山間の奥に斜面を削って強引に建てたマンションがある。その山より建物のほうが高い。奇声はその先の開発されていない山からだ。
 吉田は山に入った。
 道などない。そこから先はなにもないためだ。
 吉田が、あそこからではないかと思い当たるものがある。下からもよく見える巨木があるからだ。
 また奇声がした。
 方角的にはやはりあの巨木からだ。
 道は自然にはできない。吉田が歩いている山道は林業時代に作られたものだろう。
 巨木の下に来ると、奇声の正体が分かった。これを吉田が確認したかったのだ。
 巨木の下に小さな石仏があり、その前に十人近い人が集っていた。
 吉田が近づくと、招き入れてくれた。
 全員白装束でフルフェイスのヘルメットのような面を被っている。だから、全員かなりの大頭だ。
 リーダーが、なにやらゴニョゴニョ呪文か祝詞のような節回しでリズムを作り、ある間合いで全員奇声を上げている。
 よく聞くと「そうだそうだ、そのとーり」と聞き取れた。
 吉田もそれに参加する。
 そして儀式が終わり、雑談になる。
 当然吉田は、これは何の儀式かと聞いた。
 結論を先に言うと、土俗ごっこらしい。
 昔からあった土着の風習ではなく、最近作ったものらしい。
 御神体は目の前の巨木で、その分身のようなものを只今制作中とか。
 世話役の一人が白い着物を吉田に渡した。代金は次でよいとか。この着物に紋章をつけたいらしいが、只今考案中とか。
 被りものに関しては時間がかかるので、しばらく待ってくれとのこと。
 制作費は前払いのようで、ストックがないので、何とかしたいとのこと。
 つまり、和紙の張りぼてではなく、発泡スチロールでできないものかと、検討中とか。
 しかし、巨木信仰なので、やはりここは和紙でないと雰囲気がでないとかの意見があり、暗礁に乗り上げられているようだ。
 この儀式はニュータウンの管理下にはなく、勝手にやっていることなので、参加者が減れば、自然消滅するようだ。
 吉田はその趣旨に賛同し、新たにできた土俗儀式にすすで参加した。
 なくしていた何かが埋まるような気がしたからだ。

   了

 


2009年5月13日

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