小説 川崎サイト

 

臆病者たち

川崎ゆきお



 敵勢力が奥にいるダンジョン内に店屋がある。武器や防具を売っている。回復薬もあるので、総合ショップだろうか。
 洞窟の入り口にあり、敵勢力は滅多に現れない。それでも危険な場所であることは確かだ。
 この洞窟は初心者ダンジョンで、新米の冒険者が多い。
「剣が余っているんだがなあ。安くするよ」
 親父が初心に言う。
「いや、弓がいい」
 初心者が言い返す。
「では、両手剣はどうだ。勇者らしいぜ」
 両手剣も売れないようだ。
「この剣を売って弓を買いたい」
「高く買えないよ剣は、余ってるんだから」
「いいから、弓をおくれ」
 親父は弓を出す。
「これじゃなく、長弓がいい」
「あんたのレベルじゃ無理じゃないか」
「遠くまで飛ぶほうがいい」
「しかし、射る間隔が遅いぜ。それに矢も高くつくぞ」
「それでいい」
「あんた、戦い方、知ってるねえ」
「どういう意味ですか?」
「戦闘のコツを知ってると言ってるんだ」
「先輩から聞きました。戦場での剣士は餌食だって」
「槍は?」
「似たようなものだって」
「じゃ、どうして弓がいいんだ。攻撃力は一番低いぜ」
「死にたくないから」
「つまり、遠くから攻撃して、先に倒すってことだな」
「そうです」
「長弓の理由は?」
「敵も同じように弓攻撃が多いのです。同じ弓なら射程距離があるほうが有利です」
「まあ、そうだけど。接近されたらどうするね」
「逃げます。あ、それで、動きの早い、軽い鎧もください」
 そこにもう一人初心者が現れ、同じこと言い出した。
「ちょっと待ってくれ、長弓の在庫が心配だ」
 最近は冒険者ではなく、臆病者が多くなったと親父は感じている。

   了

 


2009年5月16日

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