小説 川崎サイト

 

金冠鳥

川崎ゆきお



「いつ頃誰が言い出したのか……」というところで、溝口は言葉を切った。
「何でしょう?」
 弟子が気になり、聞く。
「次が問題なんじゃな」
「いつ頃、誰が言い出したのか、の次ですか?」
「そうじゃ、ここまでは言える。実に簡単にな」
「私にでもですか」
「うむ、そこまではな」
「その先は、妙な噂がある。じゃないですか」
「それは先延ばしじゃよ。問題のな」
「問題ですか?」
「中身といってもいい」
「そうですね。どんな噂か言わないといけませんからね」
「そうだろ」
 溝口は眉間に皺を寄せる。
「様々な噂がある。ではどうですか」
「だからじゃ、その様々の様の一つを言わないとだめじゃろ」
「それは決まっているのでは」
「何でも当てはまる」
「では、何か当てはめればいいのでは」
「その何かが問題だ」
「何かが、ないわけですね」
「まあの」
 溝口は開き直る。
「適当で、いいんじゃないですか」
「当然、そういうことじゃが、ないときもある」
「どういうときでしょうか」
「気分が乗らんときかな」
「じゃ、気分によって、内容が変わるわけですね」
「妙な鳥の噂がある」
「えっ」
「これも先延ばしなのじゃよ」
「どんな鳥ですか?」
「それじゃ、その問いじゃ」
「でも、鳥の話なのですよね」
「金冠鳥と呼ばれる金運を招く鳥じゃ」
「先生、調子が出てきましたね。何となくイメージがわきます」
「金冠鳥が飛んでいた」
「はい」
「山奥でな」
「はあ」
「しかし、誰もそれを見ておらん。だから、飛んでおることもわからぬ」
「でも、先生は知ってるのですね。鳥が飛んでいるのを」
「目撃者が多いと困るからね」
「そうですね。珍しい鳥なので、目撃者が多いと、特定されますね」
「特定?」
「何鳥かを」
「だから、金冠鳥だといっておろう」
「それは、何かの鳥の別名でしょ」
「妖鳥じゃ」
「そうきますか」
「これを、ファンタジー逃げと申す」
「おとぎ話なんですね」
「こういうふうに話はできていくのじゃよ。わかったな」
「はい、何となく」

   了


2009年5月21日

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