小説 川崎サイト

 

名探偵リスト

川崎ゆきお



 被害者が犯人であることがある。
 宝石が盗まれた。
 盗んだのは、持ち主だ。その宝石を預かっていた男だ。
 その男はブローカーで財をなした。
 大きな屋敷の主で、宝石はその屋敷の金庫から盗まれた。
 この盗難事件を担当した警察官が、犯人は屋敷の主人であると断定した。
 その根拠は、探偵だ。
 警察官が名探偵なわけではない。
 主人が探偵を雇っていたのである。
 これが動かぬ証拠となった。
 警備のため、探偵を雇ったことがまずかったのだ。
 警備なら、警備会社に任せればよい。そして、ガードマンを常駐させればよい。
 ところが、主人は探偵を常駐させた。見張り役だ。
 問題はその探偵なのだ。
 担当警察官は、その探偵についての情報を得ていた。
 探偵を生業にする個人事業主だが、所得はない。あるのかもしれないが、確定申告していない。
 この探偵の実績は何一つない。全て失敗に終わっている。
 この情報は、日本名探偵裏リストに掲載されている。担当警察官はそれを知った。
 宝石は屋敷の主人であるブローカーが客から預かったものだ。それを屋敷内の金庫で保管していたことが、そもそも怪しい。もっとしっかりした施設の金庫室に預けるべきなのだ。
 そして、決め手は、なぜ役立たずの探偵を雇ったかだ。警備する気がなかったという証拠だ。
 探偵は金庫のある部屋で居眠りしていた。眠り薬を飲まされたわけではない。ただのうたた寝だが熟睡していた。
 ブローカーは犯行を認め、事件は解決した。
「あなたが登場すると、犯人がすぐにわかるので、ありがたいですよ。次、依頼されることがあれば、連絡してくださいね」
「はい」
 探偵は、その意味を解した様子は、まだない。

   了

 


2009年5月24日

小説 川崎サイト