セールス電話
川崎ゆきお
沼田はセールス電話で起きてしまった。昼前のことだ。
沼田は昼をかなりすぎた時間まで寝ている。そういう生活なのだ。
セールス電話はすぐに切った。セールス電話はよくある。いつもは出ないで、そのまま寝ている。電話機と寝床の距離は畳二枚分ほどある。立ち上がらないととれない。それをすると完全に起きてしまう。
しかし、頑張ればうたた寝状態で受話器をつかむこともできる。以前は子機を枕元においていた。実はこちらのほうが起こされてしまうのだ。目覚まし時計のように音が鳴るからだ。
その日は、親戚から電話がある日だった。それかもしれないと思い、起きあがったのだ。
セールス電話だとわかると、すぐに切ったのだが、うたた寝状態から出てしまった。寝床に戻っても寝付けない。
まだ眠いはずなので、勢いはそちらにあるはずだが、その日はうまくそれに乗れなかった。つまり、目が覚めてしまったのだ。
一度覚めるともうだめなことはわかっていた。寝床でじっとしていても、眠りはやってこない。
沼田はあきらめ、パソコンの電源を入れた。起きたときにするいつものコースに入ったのだ。
そしていつものようにメールのチェックをする。
親戚からメールが届いていた。
法事の日時を知らせるメールだった。電話ではなく、メールで知らせてきたのだ。
その親戚にメールアドレスの入った名刺を渡していたので、それで送ってきたのだろう。
沼田は親戚に電話した。
「ああ、メール届いたかい」
「ネットするようになったの」
「ああ、息子がね。それで、送ってもらった。法事、よろしくね」
「わかった」
メールの送信時刻をみると、あのセールス電話がかかってきた時間と同じだった。
セールス電話は、村田さんのお宅でしょうか。だった。
だから、セールス電話だと思ったのだ。
親戚の息子が、メールが届いたかどうかを確認しようとしたのかもしれない。了
2009年5月30日