勝者の世界
川崎ゆきお
「何が何でも勝たねばならぬ」
「苦しそうですねえ」
「勝算はある」
「負ける可能性も高いということですね」
「だから、勝てば価値がある」
「無理をして、勝つ必要はないのでは？」
「負けると困る」
「どうして、そんな勝負になるのですか」
「勝たねば維持できぬからじゃ」
「維持ですか」
「そうだ」
「じゃ、不安定なんですねえ」
「勝てば安定する」
「じゃ、勝てば、もう勝負する必要はなくなるのですね」
「当分はな」
「どちらにしても不安定な世界ですねえ。ふつうにできないのですかねえ」
「ふつう？」
「そうです。勝負なんてしなくても、やっていけるような」
「それも可能じゃ。だがのう。それでは大きくならん」
「欲どしいのですね」
「可能性にかけるだけじゃ」
「負けるとどうなります」
「今より悪くなる」
「その状態ではだめなんですか？」
「それでは納得できん。大きくなれる可能性があるのに、小さく収まるのはな」
「やはり、欲どしいのですよ」
「今まで、何度も勝ち、そして、勝ち取ってきた」
「でも、上へ行くほど勝てなくなるでしょ」
「だから、価値がある。選ばれし者の栄光よ」
「じゃ、今も栄光じゃないですか。勝ち抜いてきたのでしょ」
「負けたこともある。負けると悲惨だ。だから、こそ勝たねばならぬ。何が何でも勝たねばならぬ」
「勝ち組も大変ですねえ」
「だから価値がある」
「勝つことに価値があるんですか？」
「勝てることに価値があるのだ。勝てる力があるという意味でな」
「じゃ、その力に価値があるのですね」
「そうじゃ」
「じゃ、頑張ってください」
「ああ、頑張り続けるとも」了
2009年5月31日