不愉快
川崎ゆきお
「実に不愉快だ」
坂田はぼやきだした。
「どうかしたの」
友人の森下が相手する。
「実に不愉快だ」
「坂田君が?」
「そうだ。僕がだ」
「何かあったの?」
坂田は不愉快な目にあった事柄を話した。
「それは、失礼な相手だね」
「そうだろ。君にもわかるだろ」
「いるよね。そういう相手」
「自分を何様だと思ってるんだ。実に不愉快だ」
「不愉快になっているのは、君だけかな」
「僕だけに失礼な態度に出た」
「じゃ、不愉快の被害者は、君だけなんだ」
「まあ、そうだが。実に不愉快だ」
坂田は立食パーティーでの模様を話す。
「きっとその人も、八方美人なんだよ。君を無視したわけじゃなく、より上位の人がいたんだ。君にかまっていると、その上位の人に失礼になるから」
「僕は、大山より下位か」
坂田を無視して相手になっていたのが大山だ。
「その人から見ると、君より、その大山さんのほうが大事だったんだろ。よくあるじゃないか。そんなことは」
「いや、あいつが、僕より、大山を大事に思っていることがわかったのが、不愉快なんだ」
「よくある、よくある」
「よくあるにしてもだ。僕のこの不愉快さは、どうしてくれる。不快にしたあいつが憎い」
「その人に、恨みでもあるの」
「さあ」
「他の人が、それをしても許せるけど、その人だから許せないとかはない?」
「少しはな」
「だったら、最初から、不愉快な相手なんだよ」
「そうかもしれんが、実に不愉快だ」
「愉快じゃないっていうことだね」
「そうだ」
「楽しいはずなのに、そうじゃない程度だろ」
「楽しさなど期待していない。ただの不快だ」
「だったら、不愉快じゃなく、不快だろ」
「そうだな」
「もっと、偉い人がいうんじゃないの。不愉快だは」
「いや、使いたかっただけだ」
「偉くなった気分になるだろ」
「ま、まあな」了
2009年6月1日