小説 川崎サイト

 

ホームセンター

川崎ゆきお



 老後の楽しみ方にはいろいろある。田中の最近の楽しみはホームセンターへ行くことだ。老人ホームではない。いろいろなものを売っている巨大店舗だ。畑のど真ん中に城のように建っている。
 建物も広いが、駐車場も広い。
 田中はここを天安門広場と呼んでいる。深い意味はない。駐車場なので、車が止まると広場ではなくなる。
 しかし屋外にも草花や植木も売られている。まるで巨大庭園のようだ。かなり背の高い鉢植えの木もある。
 それを見ているだけでも憩える。田中はたまに鉢植えを買うこともあるが、よく枯らしている。そのため、何度も買うのだ。それを選ぶのが楽しい。実際に買うのは月に一度ほどで、あとは見学だ。
 店内に入るまでにも、大きな角材や、立て簾などが並んでいる。これは軒下だ。建物内に入る前にも見所満載だ。
 田中は見ることで、欲しくなるのだが、必要なものではない。いつか必要になったときは買うつもりだ。まだ、その機会はない。
 田中は老眼鏡をよくなくす。また、近距離と至近距離用の老眼鏡が必要だ。読書用とテレビを見る時用だ。
 また、玄関先や洗面所にもおいている。だから、結構老眼鏡は買っているのだ。なくす落としたり、汚したり、壊したりするからだ。また、度が気に入らないこともある。
 外出用に紐で首からぶら下げたい。その紐がどこで売られているのかを調べていない。これは当分の課題で、ホームセンターのどこかにあるはずだ。緊急性がないため、偶然見つけたときに買えばいいと思っている。
 この前は、老眼鏡の近くに、紐のような、バンドのようなものがあったので、それだと思ったのだが、違っていた。紐の太さ別にずらりと並んでいる。裸眼では分からなかったが、老眼鏡をかけて手にすると、時計のバンドだった。
 ホームセンターは広い。それに売っている品物が、何かよく分からないものが多い。分かっている人には、分かるのだろうが、見学のため来ているので、謎のオブジェに見える。
 特に工具類は見ているだけでも楽しい。
 そのひとつ一つを手に取り、どんな用途で使うものなのかを調べるのも楽しい。これだけでも結構時間がかかる。
 田中はその日は、作業服を買った。ポケットが多く、そして安かった。
 今度は色違いを買う予定だ。

   了

 


2009年6月6日

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