職場の鬼
川崎ゆきお
「何処へ行っても妙な人がいますねえ。あれって何でしょうね」
上田は職場を転々としていた。同じ会社で長く勤まらないのは、人のためだった。
仕事ではなく、人。
つまり、人間関係が原因で職を転々としていたのだ。
「それは大事よね」
パートのおばさんが同意する。
「私だってそうだよ。やっとこの会社に落ち着けたのもいやな人がいないからだよ。仕事は単純だからね。難しいことじゃないのね。問題は職場の人間関係よね」
上田はそれを聞き、安心した。
同じようなことでうろうろしている人もいることでだ。
パートのおばさんは五人にいる。そこに入ってきた新入りにとり、先輩は最初からいた人で、仕事を始めるまでは、どんな人たちなのかは分からない。面接の時にも、同僚のおばさんの様子は分からない。
しばらく働き出してから、やっとキャラクタが見えるようになる。その中に耐えられないほどいやな人がいると問題だ。
「私もどうしても許せない人がいてねえ。他の人にはそんな態度に出ないのに、私にだけ、嫌がらせするのよね。これって、いじめでしょ。まあ、私に隙があるからそうなるんだろうけどだ」
パートのおばさんの言うことはそのまま上田と同じものだった。同僚だけではなく、上司にもいやなタイプがいる。
二人とも、ある程度は我慢するようだ。世の中にはいろいろな人がいて、そういう人もいる。
だが、耐えられないほどいやな人がいる場合、逃げるのが賢明だ。それは我慢が足りないのではなく、理不尽なハンディのようなものだからだ。
そんないやな人がいない職場が他にあれば、そんな苦労はしなくてすむ。そして、そんないやな人がいない職場も存在するのだから。
「どう、やってける?」
パートのおばさんが聞く。
「今のところ大丈夫です」
「何処にでもいやな人はいるんだけどさ、そんな生やさしいものじゃないのよね」
「分かります。異常な人間のように見えます」
「それよそれ。病気なのよね」
「僕らがですか」
「いやな人がよ」
「おかしな人なんですね」
「趣味が合わないとか肌が合わないとかを超えた何かよ」
「そんな人が職場に一人いると災難ですねえ」
「そうそう、そいうキツイのがいると迷惑よ」
上田は、今度は無事に勤めている。了
2009年6月11日