小説 川崎サイト

 

山田のダンジョン

川崎ゆきお



 山田は穴があると入りたくなる。RPGダンジョンゲームのやりすぎだ。
 しかし、鍾乳洞にはそれほど興味はない。自然に出来た洞窟には神秘を感じない。
 確かにそこは自然の神秘が広がっているのだが、別に驚くに値しない。それが何百年かかっ出来たものでもだ。
 それよりも、川の側面にぽっかり空いている土管の穴の方が興味がわく。
 その日、山田は山沿いの道を歩いていた。町からも近い。
 こういうところに防空壕の跡がある。自然に出来た穴ではなく、人が掘った穴だ。
 つまり、穴の中に人の痕跡があるとが大事だ。
 最初に見つけた防空壕は縦穴式の入り口で、急な斜面が二メートルほど続き、底をうったところから横穴式になっている。
 当然入り口は杭と鉄条網で封鎖されているが、誰かが切ったあとがあり、難なく進入できた。
 雨が降ると、大変だろうと思う。しかし、横穴は少し上り坂になっている。
 もう、光はこない。
 山田は懐中電灯で、奥を照らす。入り口近くはゴミが散乱しているが、奥は、岩の断片が転がっている。崩れたのだろう。
 さらに奥へ行くのは、さすがに山田も怖い。
 だが、防空壕の暗闇はまだ続いている。
 これは、避難用の防空壕ではないのかもしれない。奥が深すぎるのだ。
 それに入り口も入りにくい。すぐに避難できない。穴の底まで2メートルあるのだ。飛び込めば怪我をする。
 これは軍事用かもしれない。
 山田はわくわくする。
 本土上陸を想定しての施設かもしれない。
 懐中電灯がやっと正面の壁を照らした。かなり崩れたのか、三角の山が下に広がっている。
 そして、突き当たりではなかった。
 左右にまだ延びているのだ。
 今は単なる穴だが、昔は、いろいろな物が置かれていたはずだ。
 案の定、電線のようなものが崩れた箇所から木の根のように延びている。
 そうなると、結構規模の大きい地下施設だ。
 山田は、ここで引き上げることにする。おいしいものはじっくり味わいたい。
 出口の下まで戻り、二メートルの縦穴をよじ登る。目がくらむほど明るい。
 その光が動いている。穴の入り口に誰かいるのだ。一人や二人ではない。
 軍服を着た昔の日本兵が上からのぞき込んでいたとすれば、怖いだろう。
 その正体は、子供たちだった。
「危ないから入っちゃだめだよ」
 子供は山田に注意を与えた。

   了


2009年7月1日

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