川崎フォトエッセイ  その284  記憶にない写真    ←前 →次  HOME


 いつどこで写したのか、記憶にない写真がある。とある街へ行き、そこに立ち、ファインダーを覗き、シャッターを落としたはずだ。とある街、それはとんでもない場所ではないはずだ。きっとよくあるような街で、何度か通ったことのある街角かもしれない。

 同じようなシーンが繰り返されると、混乱する。何らかの強い印象が残っていたら、思い出す手がかりになるのだが、いつもよく写すようなネタだと、わからなくなってしまう。

 忘れてしまった記憶は、浮上することなく、沈んだまま終わってしまう率が高い。しかし、よく考えてみると、古い写真を見れば見るほど、浮上しない記憶が増える。

 写真の世界は現実ではないが、それを写したのは現実である。夢の中でカメラを構えて写したわけではない。だから、写されたものには実体がある。僕がただ忘れているだけなのだ。逆に思い出せないほうが、見ていて楽しいこともある。