その891 真面目 HOME
ある建物が、どういう経緯で建てられたのかは、通りがかりの散歩者には分からない。それなりの事情があったのだろう。
それを推測するのは、散歩者の楽しみごとで、一種の刺激材料となる。
結構面白いのは、有名な建築家が設計した建物ではなく、大工さんが、依頼主の要望や成り行きで建ったものだ。
そこには機能美とか、無駄な装飾はなく、そうかといって極端なまでにシンプルなわけでもない。
つまり、建て方にリアルなものがあり、愛おしいほどに真面目なのだ。
この種の建物は賞を取るわけでもないし、話題に上ることもない。人の住処としての本来のものがそこにある。
それだけに、当たり前すぎて、その価値を敢えて言う必要もないのだろう。
散歩者の視線は、その建物にまつわる物語を想像しながら、泳いでいる。