よく考えなくても、下駄は木で出来た履き物である。僕らは普段下駄は履かない。履くのは靴である。それも西洋靴で、皮とか布の靴である。
下駄や草履は平面的な板の上に脚を乗せているだけである。船でいえば筏のようなものである。鼻緒に引っかけているだけなので、いつ放り出されるかわからないような船に乗っているのだ。靴は船でいえば構造船だ。
下駄は板なので、板廊下の延長である。草履も畳の延長である。
この種の履き物は、日本人になじみ深い生活空間である家屋の延長なので、ものすごく日常的雰囲気がする。下駄を取り囲んでいる雰囲気は、ビル街のオフィスでは似合わない。
それはオフィスにホームゴタツを持ち込むようなものだ。
しかし、下駄を履いたときの解放感は、捨てがたいものがある。倭寇となって暴れ回りたくなるような野性味がある。
まな板の上の鯉ならぬ下駄の上の足のいさぎよさもある。