川崎フォトエッセイ  その346  路地の椅子    ←前 →次  HOME

 路地とかに置かれている椅子の由緒は探りにくい。部屋内で邪魔になった椅子を外に出したのか、それとも燃えないゴミの日とかに、出されているのをもったいなく思い、玄関先に設置したのか。

 路地裏の景観はきわめて私的で、個人の思案がそのまま形となって露出している。市や町内で取り決めたわけではなく、その家の人が、取り仕切るからだ。

 椅子は座るものである。部屋の中で座ってもよいし、屋外で座ってもよい。屋外の椅子はベンチでなくてもかまわないのだ。椅子があるとそこに人が座る。立ち話よりも座っての話のほうが長時間続けられる。

 路地にある椅子は、晴れた日など、お年寄りが座っているのかもしれない。確かに部屋の中で座っているよりも、路地のほうが変化が大きい。知っている人が通れば、挨拶が交わせる。

 誰も座っていないときは猫の居眠り場所になるかもしれない。椅子の機能は座るだけではなく、見て目にも人を落ち着かせるようだ。