川崎フォトエッセイ  その734  情緒       HOME
 昔の建物や町並みは、今と比較して良かったとは思えないが、情緒的な面では明らかに勝っている。

 情緒はプラスアルファであり、何らかの感情を呼び起こす仕掛けからだけでは、生まれてこない情報である。

 確かに雰囲気を出すために、それなりの設計がなされているのだが、その仕掛けが見えてしまい、一方的に与えられる感じになると、感情の範囲が狭まってしまう。

 情緒的なものは、物語性がそこにあり、一人の作者が書いたものではなく、歴史的な拡がりを持っている。こればかりは、作ろうとしてもできない世界である。

 建物や景観が、一種の作品としてそこにあるのではなく、その町並みの中で、何代もの人々が生まれ育ち、暮らしてきた形跡を感じると、単純な感じではなく、人が見えてくるのだ。それは感覚的なものではなく、人生規模の情緒を感じてしまう。

 情緒の重みは場所によっては邪魔な添加物だが、日常の中では、それがないと殺伐としてしまうようだ。