川崎フォトエッセイ  その960  貝       HOME

 ありふれた貝でも、名付け方によって違った印象を与えることがある。たとえば子供の頃、川にいた魚介類の中で、ほとんど価値が見いだせないものがあった。バカ貝とか泥貝とか呼んでいたものだが、それがドイツ風やフランス風のレストランで、違う名前でメニューに出ていると、ご馳走のように思えてしまう。

 と、同時に、懐かしいものと再会した気持ちにもなる。「子供の頃は馬鹿にしていたけど、出世したなあ」という感じだ。

 子供の頃、貝わりという遊びがあり、昨夜食べた、まだおつゆが付着している貝殻で、わりあいする遊びだ。貝のとがっているところで、相手の貝の弱そうな箇所にぶつけて潰すのだ。二枚貝を分けるので、戦力は同じだ。

 当然爪の先を痛めたりする。貝が小さいと、指が痛いのだ。出来るだけ大きな貝を大将に選び、それで攻撃する。その頃の貝が、高価な値段で売られているのを見ると、別物に思える。

 今は、路地裏で、貝わり合戦をしているような少年はいないだろう。