川崎フォトエッセイ  その7  路地の向こう    ←前 次→  ホーム


 無限に続く路地を夢見るときがある。何処まで行っても路地が続き、果てしなく街が続いている。

 これは幼児期の記憶かもしれない。幼児の行動半径は狭い。路地の向こう側は知らない町内で、いわば他国だ。その幼児を見知る大人がいない場所だ。それに戻れる距離ではない。

 少年になると、路地の向こう側まで遠征する。行動範囲が増える。増えても全体量は変わらないのではないかと、最近思う。

 その証拠に、大人になると、その街は知っていても、細部まで知っているわけではない。幼児は路地の石ころや板塀の傷まで知っている。

 幼児にとってそこは全体なのだ。僕が喫茶店へ行くように、路地の石に腰掛ける。大人になると、その石はただの石に変わってしまう。

 いつも夢の中に出てくる街があり、そして路地がある。思い出しても記憶にない。きっと幼児の頃、路地の向こう側の、さらなる路地を夢見た記憶が残っているのだろう。