川崎フォトエッセイ  その8  火の用心    ←前 次→  ホーム


 古い路地裏には古い看板とかの表示物が張り付いている。すでに情報価値を失ったものもあれば、今も通用するものもある。「火の用心」などは、意味を失ってはいない。

 しかしあまり見慣れすぎると、建物に溶け込んでしまいかねない。あるのは分かっているのだが、そこから情報を取り出す強度を失っている。

 この種の「枯れた表示物」は、妙なポジションにいるので好きである。最新の情報もいつかは古くなり、風景の一部となる。

 だが、新しい表示物に張り替えられると、同じ情報でも新しく感じてしまう。

 表示物も、風景になり、風情になってやっと街と溶け込む。情報価値と引き替えに勝ち得た老後だ。

 そして建物と共に、寿命を終える。過去の何かを指していたであろうその表示物が消えると共に、手がかりも失われる。