川崎フォトエッセイ  その51  モノクロ    ←前 次→  HOME


 黒沢明監督の「天国と地獄」で、走る列車内での身代金受け渡しシーンがあった。その映画はモノクロ映画で、一部分だけ、カラーだった。

 ほとんどの人が、日常生活をカラーで見ている。その一部をモノクロ写真で見たとき、なぜだか客観的な見え方になる。

 日常から色を抜いてしまうと、ボリューム感や輪郭感が色に惑わされないで把握できる。つまり色っぽくない世界だ。そのためリアルに感じてしまう。

 カラーテレビで、普通の番組を見ていて、モノクロ映画が始まると、最初息苦しくなる。あるはずの色がないので、損をしたような気になるし、カラーの日常から異次元に飛ばされたようなショックを感じる。しかし何分かすると慣れてくる。

 モノクロは色情報はないけれど、林檎は赤いことを知っているし、空は青いことも経験で知っている。それらの色を抜いてしまった世界に触れるのも、新鮮でいい。