川崎フォトエッセイ  その160  誤写    ←前 次→  HOME


 誤ってシャッターを押してしまうことがある。カメラを鞄に入れよとして、シャッターボタンに指がかかってしまい、知らないうちに一枚の写真を写してしまうわけだ。

 写す意思がないので、被写体も選択していない。したがって構図とか露出とかも考えていない。

 今のフルオートカメラはそれでも一枚の写真を作ってくれる。意図しない写真は新鮮である。絵になるか、ならないかの判断を下しながら撮影していると、なかなか写すものに遭遇しない。この「なかなか」は意図とかイメージとかが頭にあるため、それに合わないものにはカメラを向けないのだ。

 間違ってシャッターを押したものにはその意図がない。作図目的の痕跡もない。しかし、この方法が面白いからといって、間違えてシャッターを押しつづけることはできない。

 この場合、写真として記録されるのは、その人が、その日その場所にいたという「かけがえのなさ」だけである。