川崎フォトエッセイ  その196  遠い海    ←前 →次  HOME

 海水浴場が成立するのは夏の間だけだ。そのため、普段はただの砂浜である。その近くに住んでいると、四季の風情を体験できるが、多くの人は、夏にしかその浜には来ない。従って夏の浜しか知らないことになる。

 できるだけ綺麗な浜で泳ぎたいと思うと、それだけへんぴな場所へワープしないといけない。自分が誰なのかさえ忘れてしまうような暑い日に、外出するのだから、さらに遠い場所のように思える。

 特に小さな子供の場合、ワープ感はさらに効果的に決まる。夏の日の思い出は光りが多すぎて、風景も露出オーバー気味で、細部が飛んでしまう。目が開けられないほど眩しいため、よく見えていないのだ。

 そして、海水浴場に着くと、いきなり着替えて海に飛び込む。大人ならある程度地形を把握しているが、子供にとっては、地球の上に投げ出されるような感じだろう。

 僕も子供の頃行った海水浴場が、今でも現実に存在している場所だとは、とても思えないほど遠い。