川崎フォトエッセイ  その410 抽象の放置       HOME

 車のシート(防水布)が、放置されたまま野ざらしになっていると、仕事を失って萎んでしまった人のような印象を受ける。

 本来の役目ではない姿をさらしていると、それは一種の抽象となる。これは具体性に欠けるという意味での抽象で、決して抽象的な意味が含まれているのではない。

 抽象的な存在は、地に足が着いていない状態で、宙に浮いた現象である。ただそれが物として存在している場合、肉体から遊離しきれない霊魂のようなものだ。

 僕らがある物体に抽象性を感じるのは、それほど上等な意味ではなく、何かよくわからないから、何らかの抽象パターンに格納するだけもしれない。

 写真は現実に存在するものしか写せない。その意味で、抽象的な存在は写せない。抽出したものは映像にはならない。それは言葉が映像にならないのと同じだ。

 写真は抽象は写せないが、抽象的なイメージは物に託して写せるだけだ。