川崎フォトエッセイ  その521  水道      HOME

 井戸と水道が共存していた時代があった。これは、水道が各戸に普及するまでの過渡期で、ほんの僅かな期間だったと思えるが、その時代僕は少年だった。

 台所は炊事場と呼ばれ、土間だった。竈でご飯を炊いていたのだから、土間でないと薪をくべられないのだ。

 水は屋外にある井戸からつるべでくまれ、それをバケツに満たして炊事場の水瓶にストックしていた。もうこれだけでも重労働である。特に雨の日などは往生したはずだ。

 共同井戸のようなものがあって、そこには水道もついていたが、この水道も共同なので、むやみに使えなかった。しかし井戸よりも水道を使うほうが多くなり、やがて井戸は西瓜を冷やすしたりする水槽になってしまった。使わない井戸は水が濁るため、徐々に飲料水としての役目を終えていったのだ。

 町内の水は、各町内によって違っていたはずだ。水の品質よりも、水があるということだけでも重宝していたように思える。