川崎フォトエッセイ  その594  生乾き      HOME

 古い町並みが、懐かしさを誘うわけではない。懐かしく思うには、ある距離が必要で、その距離は今とほとんど繋がらない場合のほうが効果的だ。

 今との繋がりとは、未だに日常の中に取り込まれている場所で、利用されている関係を指す。今生きている状態を懐かしく思わないように、現役の日常風景は生なリアリズムがある。そのため、鑑賞するという位置にはない。

 今と切り離されたような風景は、一方通行であり、自分の中での限られた場所としか交流しない。その意味で観光客に近いものがある。

 どんなに時代から取り残されている風景でも、そこを自分自身が利用し、生活シーンに出てくる場所であれば、明らかに今の風景なのである。

 この時代は、この時代のものだけで構成されているわけではない。